百姓テールズ vol.3 -JATP研修生 武井さんの農業への想い-

こんにちは。

いつもAgri Step(アグリステップ)をお読み頂きありがとうございます。

久しぶりの更新となります、百姓テールズです。

ここでは農業に関わる人たちの背景や想いについて記事にしていきます。

今回は海外農業研修を経験した武井くんに農業を志したきっかけから、アメリカでの体験を通した学び、これからの将来への想いなど、その胸の内を明かしてもらいました。

彼は大学を卒業後、海外農業研修に申込ましたが、コロナの影響により一年渡航が遅れてしまいました。

その間、農業法人にて社員として働き1年3か月の待機期間の後晴れて研修に参加することのできた研修生です。

あきら

農業にまだ関わったことのない方も興味を持つきっかけになるお話になるかと思います。

今回の記事はインタビュー内容に則った形式で書いていきます。

目次

武井さんインタビュー

農業(畜産/酪農)に興味を持ったきっかけ

あきら

武井さんがどうして農業に興味を持ったのか教えていただけますか?

Takei

真剣に農業について考え始めたのは大学受験の時ですね。
それまで野球をずっとやってきたのですが、いざ受験となった際に農学部へ行くことを決めたんです。はじめは、工学部へ行くことを希望していたのですが、工学部への興味よりも農業への興味が強かったことが学部を選んだ理由です。

あきら

そうですか。
それまでは農業に関わったことはなかったんですか?

Takei

高校終わりまで全くありませんでした。
だけど、母親の実家が田舎にあったことで、記憶にないほど幼い頃から近くの牛舎で牛を見に行くことがとても好きだったらしいんです。
それほど記憶に今も残っていないんですが、
今思うとその頃の感覚が残っていたからこそ、受験の時に工学部でなく農学部を選択したのだと思います。

あきら

もっと暮らしに農業があったわけではないんですね。
僕のイメージとして牛などの世話をした経験のある方が大学の農学部へ進むものだとばかり思っていました。

Takei

全然そんな経験はなかったですね。
犬とか猫とかが飼いたかったので(笑)
牛が小さい頃好きだったことが潜在的にあったんだと思います。
そこで畜産/酪農の道へ行って牛の世話をしてみたいと考え付いたのだと思います。

あきら

大学は地元の大学(東北)ではなく九州にある大学を選んだことにも何か理由があるのでしょうか?

Takei

兄弟が多かったこともあり、両親への負担を減らすためにも国公立大学への進学を考え、いくつか自分の学力に合った畜産系の大学を抽出した結果、地元を離れることになりましたね。

アメリカでは念願の犬や猫と共に生活ができていたそうです。

農学部での学びや経験に関して

あきら

とても建設的に大学選びをされていたことが伺えました。
それでは、大学に入学する際、畜産/酪農についてどんな内容を学べることを期待されていましたか?
また実際に学んだ内容はどのようなもので期待に沿ったものでしたか。

Takei

入学前には、毎日動物と触れ合うような実習をイメージしていましたが、いざ入学してみると良い意味で全く別ものでした。
大学は”研究機関”なので、「動物がどのような行動をとるのか」や、「動物の生態や体の構造」について学びました。
振り返ると実習3割/座学7割といった感じでしたね。
ただ結果、僕としてはとてもよかったんです。
もともと動物について何も知らない所からのスタートでしたから。

あきら

僕は大学で農学部を選択してないので、知りませんでしたが今こうしてデービスで学んでいると、大学が研究機関ということがとてもしっくりきます。
地元ではない大学へ行ったことについて今振り返るとどう思いますか?

Takei

地元ではない大学に通えたことはとても自分の中でプラスに働いたと感じています。
地元とは別のコミュニティができたことが良かったと感じています。
例えば地元の大学へ進学した場合に、同じ風土、土地柄、慣れ親しんだ人々との交流になる。
それに対して、全く別の土地の大学へ通ったことで、日本の中にある異文化に触れることができ新しい発見の多い大学生活となりました。

あきら

俗にいう知見を広げることができたということですね。

Takei

そうですね。

海外農業研修(JATP)に参加した理由は?

あきら

続いて、大学を卒業してから海外農業研修に参加しようと想ったきっかけについて教えていただけますか?

Takei

はい。
大学での経験が大きく影響しています。
僕の大学時代は学生寮で生活をしていたのですが、その寮には日本人だけでなく、国際生も生活をしていました。
実際に生活をしていく中で、文化が違うのでストレスにも感じたことはありますが、その最中とても楽しんでいる自分がいることに気付きました。
それからは、共同生活が楽しくなり、次第に「海外の農業を学んでみたい」という気持ちが出てきました。
それからは、どのような流れで海外の農業を学べるか検討し始め、WWOOFや、ワーホリ(ワーキングホリデー)について調べ始めました。
その際、JAECの海外農業研修を知り、自分でVisaの申請や、保険、その他諸々をする必要なく、海外へ渡航することができるということに魅力を感じ応募するに至りました。

あきら

そうですよね。
僕はWWOOFでニュージーランドへ行ったことがあるので分かりますが、海外で生活をするとなった際には、面倒くさい手続きがたくさんありました。
それこそ飛行機の予約などもこの研修ではすべて行ってもらえているので僕もとても驚きました。

あきら

大学時代、共同生活での経験についてもしよければ思い出に残っているエピソードなど教えていただけますか?

Takei

いいですよ。
その頃に一緒に生活していたアフガニスタンの学生がとても良い人たちだったんです。
アフガニスタンで尽力していた中村哲さんの影響で、日本に対してとても好意的な印象を持ってくれていたんですよね。
その時に、「たった一人の行動によって国の印象というものが変わるんだ。」と感じたんです。
また、政治上で好印象を持てていない国から来ている留学生も個々で話してみると良い人がたくさんいて、一概に国際関係と人間関係が一致しないことを気付きました。

あきら

とても良い経験ですね。
僕も学生時代に中村哲さんの尽力されていたことなどは、ゼミの関係もあって聞くことがありました。
日本にいる中で、その影響を感じることができたというのはとてもレアな体験だと思います。
アメリカを研修先に選んだ背景としてどんなことがあったんですか?

Takei

さっき話したような留学生との交流を通して、「実際に見たり聞いたりしないと本当のことは分かんないな。」って感じたんですよね。
そして、アメリカについて考えたときに、世界を牽引している国というイメージがあって、それを実際に見てみたいなって思ったんです。
だからアメリカに行こうって考えましたね。

パンデミックの影響について

あきら

武井さんが海外研修を志望してから、コロナのパンデミックが起こってしまい、一年以上の待機期間が生じてしまったのですが、それに対してはどう感じましたか?
「やめてしまおう」とかネガティブな感情にはなりませんでしたか?

Takei

正直、新卒のステータスが使える期間ではあったので、それを捨ててまで待つ必要があるのかと感じました。
ただ、卒業後には自分の状況を理解してくれる地元の農業法人で就職し始めたんですよね。
途中でやっぱり何度もネガティブな感情は出てきました。
次第に自分の中で、「これからの動向は予測はできないけど、研修に行きたい気持ちはどれだけ待期期間が伸びようが変わらない」ってことが分かったんです。
それからは、どれだけ待とうがいつかは行けるだろって楽観的な感覚で仕事ができていました。

あきら

そんな風に考えられてたのはとても強い精神力だなって思います。
今こうしてアメリカに来れてよかったなって、聞いてる側として素直に思えますね。(笑)

アメリカで学んだことはなんですか?

あきら

研修も終わりに差し掛かっていますが、農場で研修していたころに学んだことについて教えてもらっても良いですか?

Takei

もちろんです。
動物を飼育する上で何を絶対に欠かしてはいけないかというと、”動物の生死”に関わることなんですよね。
・えさをあげる
・水をあげる
・ミルクをしぼる
・子供のチェック
これらは絶対に外せない作業なんです。
それ以外でも日本では残業してでもやっていた作業は、アメリカでは結構省略されることもありました。
省略と言うか、オペレーターが疲れすぎたり、キャパオーバーになったりする作業であれば遅れて良いので作業をあとに回すようなマネジメントをしていたって感じですね。
そして、作業員が残業するような内容が残っていた場合は、経営側が残りの作業を面倒みるというような農場の風土がありました。
僕たち研修生にもそうやって言ってくれてましたが、僕としては家族の一員のような気持ちで働いていたので、同じように作業をこなしてはいましたが、農場の中で、作業員をいたわる風土が整っていました。

Takei

他にもボスの経営に対する考え方についても学ぶことができてとても充実していました。
例えば、お金の投資方法や物を大切にする考え方についてですね。

あきら

アメリカの研修を通して自分の中で、変化したなと思うことはありますか?

Takei

ありますね。
アメリカで生活する中でとても合理的に考えることができるようになりました。
「人は人」って感じですね。(笑)
日本で生活をし続けていたら、同調圧力の一人になっていたんだろうなって感じています。
もちろんそれが悪いことだとは思っていないのですが、”自分はこう思う”ってところをはっきりと主張できるようになれたかな、と思います。

あきら

変化を自分で感じることができるのはおもしろいですよね。

日本農業の良さ/悪さについて

あきら

日本で学び仕事をしたうえで、アメリカでも働いてみて今思う日本農業の良さや悪さについて思うことがありますか?

Takei

良い所は、「同業者との距離が近い」ことですね。
物理的な距離が近いことで協力を仰ぎやすい。なのでコミュニティにうまく溶け込むことができれば、助けを求めやすいと思います。
アメリカは距離が遠いため、ヘルプを頼んでも片道1,2時間かけて来ることがざらにあるのでそこが全然違います。
また先輩農家さんに対しても、アドバイスを聞きに行きやすいことも日本の良さになるかなと思います。
あと、JAのサポートがいろいろとあり、アメリカに比べて支援が受けやすいと思います。

Takei

大きなマーケットが1,2時間で行けるような距離にある日本はとても魅力があるなと思います。
日本だけで生活していた頃はその時間が長く感じていましたが、今はアメリカの広さを知り、たったの数時間で行ける距離にマーケットがあるという認識に変わりましたね。

あきら

たしかにアメリカは本当に大きいですよね。
今いるカリフォルニア州だけでもすでに日本の面積は超えていますからね(笑)
それでは逆に悪い部分はありますか?

Takei

悪い部分は、これも同様に「物理的な距離が近すぎる」ことですね。
あまりに周囲の方との関係をうまく築くことができない場合に「出る杭は打たれる」じゃないですが、村八分にされやすいようなことあると思いますね。

日本農業の課題は?

あきら

日本から離れてみて、日本農業の課題について見えたことはありますか?

Takei

人口がこれから絶対に減っていく中で、人材の取り合いが始まると考えています。
その際、働く環境が整っていない体制の会社で働きたいと思う人がどれだけいるのかと考えた場合にあまり多くないと思うんですよ。
農業だから残業オーケーとかで済む時代ではなくなってくると思うので、他産業とも比べても引けを取らない、またはそれを超えるような雇用体制を農業法人を作っていくことが課題になっていくのではないかと思います。

武井さんのこれからの進路、将来像について

あきら

これから日本にもうすぐ帰国となりますが、これからどのような進路へ進んでいこうと考えていますか?

Takei

これからは一度現場を離れようと考えています。
今まで大学の実習期間も含めると5年近く農作業に携わってきました。
農業をする上では、組織の経営や、人材マネジメントについてなど考えていくことがたくさんあると思います。
帰国後は、その農作業の裏側にある、経営の部分を学ぶ時間にしていこうと考えています。
そして将来的には自分の農場を持ちたいなと考えています。

まとめ

今回は畜産/酪農を専攻にしている武井くんの農業感についてインタビューしてきました。

決して幼い頃から農業に関わったことがない彼が、農業の世界へ飛び込み、感じてきたものは日本だけではなく、異国の地の考え方や農業の在り方でした。

農業という仕事には現場の知識だけでなく、経営、会計、人事など様々な知識が必要であることを体感し、順を追って学んでいる姿はとても印象的です。

農業には数多くの問題がありますが、こうして若い農業の担い手が日本という国の枠を超えて育つことはまた新たな希望として、次の世代の人につながっていくように感じます。

僕たちの参加した海外農業研修について、以前記事を書いていますので、もしご興味のある方はぜひこちらのリンクから読んでみてください。

それでは今回も最後までAgri Stepをお読み頂きありがとうございました。

それではまた次回。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次